80〜90年代の最先端J-POPを牽引した歌姫・小泉今日子を体感せよ!
シェア

80〜90年代の最先端J-POPを牽引した歌姫・小泉今日子を体感せよ!

2024.09.04 18:00

Edited by

最近、小泉今日子の仕事ぶりが精力的だ。9月からNHK BSでドラマ『団地のふたり』が放送開始、11月22日からは倉本聰原作・脚本の映画『海の沈黙』が公開。近年は、自身が立ち上げた制作会社での裏方業がメインの印象だったが、やっぱりKYON²はスポットライトが当たる場所がよく似合う。

何よりも嬉しいのは、歌手・小泉今日子としての活動も活発なこと。2022年にデビュー40周年の節目を迎え、31年ぶりの全国ホールツアー「KYOKO KOIZUMI POP PARTY」を開催。その第二弾として2023年には「KYOKO KOIZUMI CLUB PARTY 90’s」が行われ、今年はその第三弾として、ツアー「KYOKO KOIZUMI TOUR 2024 BALLAD CLASSICS」が発表されている。

アイドルとしての小泉今日子がいかに異端な存在であったかは、これまでも多くの識者によって指摘されてきた。世代としては中森明菜、松本伊代、早見優らと同期の、いわゆる“花の82年組”だが、そのスタンスは先鋭かつ過激。魚拓ならぬ人拓をやってみたり、謎の筋肉スーツで紅白に登場したり、事務所に黙って髪型を超ベリーショートにしてみたり(実際には、髪を短くするくらいは伝えていたようだが)。彼女はトップ・スターの王道ど真ん中に位置しながら、同時にアイドルを破壊・解体するという離れ業をやってのける。その先進性が最も色濃く表れていたのが、歌手活動だった。

アイドルが自らのアイドル性を自覚的に歌うという「なんてったってアイドル」から、その萌芽はあった。彼女は秋元康の詞を見るなり「オトナが悪ふざけしてる!」と驚いたそうだが、あえてその“悪ふざけ”に身を投じることで、従来のアイドル像を刷新する。“面白がられるアイドル”としての自分を客観的に見つめ、“それを面白がる面白いオトナたち”と仕事をすることで、小泉今日子というアイコンをセルフ・ブランディングしていったのだ。

近田春夫、高木完、藤原ヒロシ、沖野俊太郎、小山田圭吾(コーネリアス)、田島貴男(Original Love)、浜崎貴司(FLYING KIDS)、テイ・トウワ、小西康陽(ピチカート・ファイヴ)。80年代終わりから90年代にかけて、彼女は渋谷系・クラブ系ミュージシャン達とのコラボレーションを活発にさせていく。アルバム『ナツメロ』(1988年)のアートワークは、『タモリ倶楽部』の空耳アワーでお馴染みの安斎肇だったりして、サブカル界隈との交流も盛ん。2023年に行われた「KYOKO KOIZUMI CLUB PARTY 90’s」は、その時代の楽曲が中心に組み立てられたツアーだ。

配信開始前、または配信終了しています。

80年代〜90年代の最先端J-POPを牽引した歌姫・小泉今日子を体感するには、最高のライヴである!と断言しよう。ツアーで披露された楽曲を簡単に紹介しつつ、アーティストとしての彼女の魅力を伝えていきたい。

「水のルージュ」作詞:松本隆 作曲:筒美京平

『Phantásien』(1987年)収録。桑名正博の「セクシャルバイオレット No.1」、CCBの「Romanticが止まらない」、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」、近藤真彦の「ブルージーンズメモリー」、中山美穂の「ツイてるねノッてるね」…。昭和歌謡・昭和アイドルソングの名曲を数多く手がけた松本隆×筒美京平の最強コンビによるシンセポップ。アルバム『KOIZUMI IN THE HOUSE』(1989年)にBreak' ACID' Beats MIXヴァージョンが収録され、アシッド感の強いクラブ・ミュージックとして生まれ変わった。

「DRIVE」作詞・作曲:テイ・トウワ

アルバム『Bambinater』(1992年)収録。当時まだDeee-Liteのメンバーで、ソロ・デビュー前のテイ・トウワが作詞、作曲を担当。「小泉今日子です。みなさん、お元気ですか?わたしは元気です」というお馴染みのモノローグが、ライヴでも披露されている。

「CDJ」作詞・作曲:小西康陽

『KOIZUMI IN THE HOUSE』収録。原曲はいかにも小西康陽らしいキャッチーなハウス・ミュージックだが、このライヴ版ではakkinのラウドなギターが轟くロックなアレンジに。「(大切なレコードを)割っちゃった…」という言い方が、いつ聴いてもキュートすぎる。後にピチカート・ファイヴもセルフ・カバーしています。

「Moon Light」作詞:サンプラザ中野 作曲:久保田利伸

『BEAT POP KOIZUMI KYOKO SUPER SESSION』(1988年)収録。爆風スランプのサンプラザ中野(現:サンプラザ中野くん)と久保田利伸という、CBS/SONYの屋台骨を支えた2人によるコラボ曲。ベストアルバム『Ballad Classics II』(1989年)に収録されたバージョンでは、日本が誇る“ミュージック・マエストロ”ヤン富田がアレンジを手がけて、ドリーミーなバラードに仕立てている。

「BEAUTIFUL GIRLS」作詞:小泉今日子 作曲:筒美京平

永瀬正敏との電撃結婚直後に発表したシングル。心が浮き立つようなAメロから、ギターが裏拍でリズムを刻むBメロ、そして一気に解放されるサビへの展開は、さすが巨匠・筒美大先生。天下無双の王道ポップ・ソング。

「FOR MY LIFE」作詞:小泉今日子 作曲:菅野よう子

小泉今日子本人が全曲作詞を手がけたアルバム『オトコのコ オンナのコ』(1996年)収録。後に、ドラマ『恋愛結婚の法則』(フジテレビ系)の主題歌として、キハラ龍太郎によるリアレンジ・バージョンがシングル・カットされた。イントロの「フォー、マーイー、ラーイフ」の歌い出しが両バージョンで全く異なるのだが、このライヴではキハラ龍太郎Ver.で幕を開ける。

「オトコのコ オンナのコ」作詞:小泉今日子、作曲:奥田民生

『オトコのコ オンナのコ』収録。脱力系ロックを書かせたら右に出る者がいない男・奥田民生による、ひたすら楽しいカントリー・ソング。たぶん、PUFFYがまんま歌っても遜色ない。

「バンプ天国」作詞:阿久悠 作曲:井上忠夫

カバー・アルバム『ナツメロ』(1988年)収録。フィンガー5のカバー曲といえば「学園天国」が有名だが、実は「バンプ天国」もカバーしているのです。こんなファンク・ナンバーをも自分のモノにしてしまう、KYON²の懐の広さに驚愕。ちなみにバンプという言葉は自動車のバンパーが由来で、「衝突する」「ぶつかる」という意味。

「東京ディスコナイト」作詞:星野節子、高橋秀章 作曲:信藤三雄、村松邦男

『Bambinater』収録。“東京モータウン・サウンド”をキャッチコピーに、80年代を駆け抜けた伝説のバンド・スクーターズのカバー曲。いわゆる和モノ(JAPANESE GROOVE)の先駆けとなったナンバーを事も無げに歌ってしまうのが、コイズミ流。バンドリーダーの信藤三雄は、ピチカート・ファイヴやフリッパーズ・ギターなど渋谷系のジャケットデザインを数多く手がけた、天才アートディレクターでもある(っていうか、そっちの方がはるかに有名)。

「女性上位万歳」作詞、作曲:YOKO ONO

『TRAVEL ROCK』(1993年)収録。1973年にオノ・ヨーコが発表した楽曲のカバーで、70年代ウーマン・リブを背景にした女性讃歌。「おんなの才気を振るう時 女魂女力で  女魂女力で 起こそう新時代」という歌詞が今なお新鮮に聞こえてしまうのは、まだまだその時代に到達できていない証なのかも。ライヴでは、終盤で「ラプソディー・イン・ブルー」のメロディーがピアノが奏でられる。遊び心満点でイイですね。

「キスを止めないで」作詞:秋元康 作曲:野村義男

1987年発表のシングル。秋元康が作詞した楽曲といえば、なんてったって「なんてったってアイドル」が有名だが、たのきんトリオの“よっちゃん”こと野村義男が作曲したこちらも忘れてはいけません。サビでかかるホーン・セクションが印象的な、アップ・テンポなナンバー。

「LOVE SHELTER」作詞:小泉今日子 作曲:EBBY

『TRAVEL ROCK』収録。「明日地球が爆発するって!」という未曾有の一大事でも、恋人とのラブラブ最優先なリリックにヤラれる。愛は地球を救う。ピース!な、痛快ロックンロール・ナンバー。

「La La La...」作詞:小泉今日子 作曲:藤原ヒロシ、屋敷豪太

『No.17』(1990年)収録。藤原ヒロシと屋敷豪太という、90年代最もカッティング・エッジなトラックメイカーが共作して創り上げた、メロウなラヴァーズ・ロック。ンチャ、ンチャというレゲエのリズムに、KYON²のちょっとハスキーなヴォーカルが折り重なる感じ、最高です。

「この涙の谷間」作詞:銀色夏生 作曲:関口和之

『Phantásien』収録。大澤誉志幸「そして僕は途方に暮れる」の作詞で知られる詩人・銀色夏生と、サザンオールスターズのベーシスト・関口和之がタッグを組んだら、浮遊感のある不思議なバラードが出来上がった。原曲はスペーシーなアレンジが施されているが、今回のライヴ・バージョンでは、ダウンストロークのギター・リフと耽美的なピアノが印象的な演奏になっている。

「Fade Out」作詞、作曲:近田春夫

『KOIZUMI IN THE HOUSE』収録。これぞ和レア・グルーヴ。直球ど真ん中なハウス・ミュージック。天才・近田春夫と組んだら、アイドルの枠を超えた大名曲が出来上がった。個人的イチ推しナンバー。

「あなたに会えてよかった」作詞:小泉今日子 作曲:小林武史

『afropia』(1991年)収録。田村正和と共演したドラマ『パパとなっちゃん』(TBS系)の主題歌。小泉今日子のディスコグラフィーのなかでも、特に有名な一曲だろう。小林武史のソングライティング能力はもちろん、間を縫うように鳴らされるバリトンサックスがアクセントになっているなど、卓越したアレンジにも唸らされる。今回のライヴでは、ピアニカやギタレレの音色がリラックスした雰囲気を醸し出している。

1982年に「私の16才」でデビューした小泉今日子は、40年以上の長きにわたって日本音楽史の一端を担ってきた。飾ることなく、カジュアルな態度で、J-POPの最前線で活躍し続けてきたのだ。俳優はもちろん歌手としても、彼女はカッコいい存在であり続けている。

この記事をシェア

Edited by

音楽・ライブ 特集の記事一覧

もっと見る