実在の事件を基にした後味の悪い映画5選(殺人鬼編)
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実在の事件を基にした後味の悪い映画5選(殺人鬼編)

2024.09.03 18:00

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Xにて映画紹介などをしているゆいちむが、実在の殺人鬼たちを描いたサスペンス/スリラー映画を紹介します。

はじめに/実在の殺人鬼たち

エド・ゲイン、テッド・バンディ、ジャック・ザ・リッパー……世間を震え上がらせた実在の殺人鬼たちは、これまで映画や小説などの創作分野に多大なインスピレーションを与えてきました。

本来であれば、社会規範やモラルから大きく逸脱した異常で忌むべき存在であるはずの彼らですが、その異質さは私たちの好奇心を強く掴んで離しません。

今回はそんな「怖いもの見たさ」を存分に満たしてくれる、暗い魅力を持つ作品たちをピックアップしました。

フィクションでは決して味わえない、信憑性のある恐怖としんどさを体験してみましょう。

一部ネタバレを含んでいますので、ご了承ください。

①『アングスト/不安』(1983)

アングスト/不安
©1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

1980年1月、オーストリアで発生した「一家惨殺事件」を基にした作品です。

この事件は、実在の殺人鬼ヴェルナー・クニーセクによって引き起こされ、映画はその異常性を再現したものです。

ちなみに、ビデオブーム期に国内でVHSリリースされた際のタイトルは『鮮血と絶叫のメロディー/引き裂かれた夜』でした。

刑務所を出所した狂人が殺人衝動のままに、ある家族を惨殺する一夜劇……といういたってシンプルな内容ですが、目を背けたくなる厭な臨場感は、まるで画面を通じて殺人現場を目撃しているかのようです。まさに人殺しの追体験と言って良いでしょう。

自由自在なカメラワーク、殺人鬼のモノローグ、全編を覆う凍えるように陰鬱なトーンなど、映像芸術としての完成度の高さに比例して、決してコントロールすることのできない異常者の恐ろしさが浮き彫りにされています。

娯楽を目的としたホラー映画ではない点に留意すべきですが、本作が内包する狂気と異常性は、一度は観たら決して忘れられない程の衝撃があります。

「ヒトコワ」などと軽口を叩けないレベルの、劇薬のような恐怖を体験してみてください。

②『ヘンリー』(1986)

ヘンリー
©1986 MALJACK PRODUCTIONS

1970年代後半から80年代にかけて、全米で多数の殺人を犯したとされる実在の連続殺人鬼ヘンリー・リー・ルーカスの日常をドライに描き出したセミドキュメンタリー風の作品です。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)や『ウォーキング・デッド』(2010)などで広く知られるマイケル・ルーカーが、息をするように人の命を奪う男を演じる、非常に不気味な「日常系」映画となっています。

淡々と日常を流すだけでなく、被害者と楽しげに歓談しているシーンから一転して死体が映し出され、殺人の実行を示唆するという印象深い演出なども用いられています。目的もなく機械的に人を殺すという行為の冷酷さを際立たせており、思わずゾクリとさせられました。

また、いわゆるスプラッター的な残虐描写は控えめですが、スナッフフィルム風のシーンをはじめとする生々しい質感の殺害描写が多く、劇的でないがゆえのリアリティが作品全体に不気味なトーンを与えています。

視聴者を突き放すかのように狂気を全力で投影する結末も見逃せません。

シリアルキラーが抱える闇の深さ、そして殺害動機の理解不能性が胸に焼き付けられること必須です。

殺人鬼の日常的な狂気が鮮烈に描かれるこの作品、ぜひその不気味な世界を覗いてみてください。

③『モンスター』(2003)

モンスター
©2003Film&Entertainment VIP Medienfonds 2 GmbH&Co.KG and MDP Film Produktion GmbH

1989年から1991年にかけて7人の男性を殺害し、2002年に死刑が執行された元娼婦であり連続殺人鬼のアイリーン・ウォーノス。そのあまりにも悲しく、痛ましい真実を描いた伝記映画です。

幼少期に受けた性的虐待の影響によって13歳で売春を始めた女性アイリーンと、社会に馴染めず孤独に生きてきた同性愛者の女性セルビー。

二人が育んだ愛情は歪んだ関係性の中で次第に崩れ、一人の人間が追い詰められ、壊れ、やがてモンスターへと変貌していく様子が描かれています。

逃避行を続けるために、アイリーンは身体を売ることを余儀なくされ、この消耗的な共依存関係には、誰もが胸を痛めることでしょう。

また、これは「なぜ彼女が売春の道を選ばざるを得なかったのか?」という問いに対する一つの回答にもなり得ます。

本作で壊れていく女性、アイリーン・ウォーノスを演じたシャーリーズ・セロンは、その圧倒的な演技力と役作りが高く評価され、第76回アカデミー賞(2004年)で主演女優賞を受賞しました。

行き詰まった人生の中で、何もかもがうまくいかない。

追い打ちをかけるかのように、悪いことしか起きない。

ひと握りの救いすらない展開に絶望を覚えますが、本作は実在の殺人鬼を悪魔としてではなく、あくまで一人の人間として、その悲痛な人生の苦しみを描き出したヒューマンな側面が魅力となっています。

鬱々とした余韻に浸りながら、アイリーン・ウォーノスが手にすることのなかった未来に思いを馳せてみるのもよいかもしれませんね。

④『ゾディアック』(2006)

ゾディアック
© Warner Bros. Entertainment Inc. and Paramount Pictures Corporation

1968年から1974年にかけて、アメリカのカリフォルニア州で発生した未解決の連続殺人事件「ゾディアック事件」を題材にした犯罪スリラー映画です。

この事件は、犯行後に警察やマスコミへ犯行声明文を送りつけたことから、「劇場型犯罪」の一例としても知られています。

「ゾディアック」と名乗る連続殺人犯が誘う怪事件。その解決に挑む人々を待ち受ける、しんどい運命を描いた迷宮入りサスペンスの金字塔的作品です。

今作の魅力は「不幸の長距離マラソン」ともいえる捜査の過程にあります。

決定的な証拠を掴めないまま捜査は難航を極め、ただ時間だけが無常に過ぎていく。

泥沼に陥った捜査が停滞し、登場人物が徐々にフェードアウトしていく中、法執行機関でもない風刺漫画家の主人公だけが、狂気的な執念でゾディアックの存在を追い続けます。

しかし、この事件は未解決のままであり、当然ながら目の覚めるようなドラマティックな展開は無く、極めてビターな顛末を辿ります。

出口の見えないトンネルの中を永遠に走り続けるかのような厭さと絶望の長さは、相応の尺がなければ再現できないものです。

「時はすべてを破壊する」

これはギャスパー・ノエ監督の作品『アレックス』(2002)で用いられたフレーズですが、時間の不可逆性や経過による変化と喪失を描いている本作においても、ニュアンスは異なるものの、共通項を見出せるかもしれません。

今日に至っても「ゾディアック事件」は未解決のままです。

人生や生活を消耗した先に待つやるせない後味に、本作の暗い魅力が詰まっているのではないでしょうか。

⑤『永遠に僕のもの』(2018)

永遠に僕のもの
©2018 CAPITAL INTELECTUAL S.A / UNDERGROUND PRODUCCIONES / EL DESEO

1971年から1972年にかけて、アルゼンチンで強盗と殺人を繰り返した殺人犯カルロス・ロブレド・プッチにインスパイアされた、美しくも切ない実話に基づく作品です。

わずか1年ほどで少なくとも11人を殺害したその犯罪歴も注目すべき点ですが、何より特筆すべきは、その美貌から「黒い天使」と呼ばれたことでしょう。

艶やかに濡れた唇、ブロンドの巻き毛、そして天使のような顔立ち。

しかし、彼は欲しいものを手に入れるためなら、邪魔な人間を躊躇いなく撃ち殺します。

彼はどのようにして犯罪に手を染め、何を望み、堕ちていったのか。

まるでアニメキャラクターのような少年殺人鬼の誕生について、ポップなセンスで描かれています。

彼が実行する残酷な凶行の数々は、チャーミングでありながら艶やかな雰囲気を纏った主演ロレンソ・フェロの魅力と、心の渇きや孤独を描き出す物語の哀愁が相まって、美的に昇華され、どこか腑に落ちてしまうような危うさを放っています。

それゆえに、強烈に同情を誘う幕引きの哀愁や切なさはひとしおで、じんわりと心地良い後味の悪さを味わえるでしょう。

美しい映像とファッション、音楽にダンス、そして「黒い天使」の無邪気な笑みにきっと魅せられるはずです。

おわりに

単なるエンターテイメントの枠に留まらず、社会の陰影や理解の及ばぬ心の闇を映し出すこれらの作品は、ノンフィクションとはひと味違う特別な読後感を味わえるかと思います。

持って生まれた狂気なのか、それとも社会環境が生み出したモンスターなのか……それぞれの殺人鬼のパーソナリティについて考えることも、有意義な経験となるかもしれません。

人間の心の奥底に潜む闇や欲望、そしてその暗がりが生まれた背景や心の叫びに、ぜひ想像を巡らせてみてください。

ただし、『ゾディアック』が警告しているように、過剰な深入りには注意してくださいね。

「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」

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